どれほど魅力的な商品やサービスであっても、その良さをただ並べるだけでは相手の心に届きません。
人は論理だけで動くのではなく、感情に共感し、物語に引き込まれたときに「行動したい」と思うからです。
そこで注目されているのが「ストーリーライティング」です。
なぜストーリーが必要なのか?
マーケティングやセールスの世界では、「人は感情で動き、理屈で正当化する」とよく言われます。
たとえば、同じ化粧品でも「成分や機能」を並べるだけでは違いが分かりにくいのに、「この商品に出会って自信を取り戻した」という利用者のストーリーを読むことで、情景を目に浮かべることができるのです。
また近年では、ChatGPTやGeminiなどの生成AIの普及により、誰でも簡単に文章を作成することができるようにもなりました。
しかし、AIが得意とするのは、情報整理や事実の提示であって、人の心を動かす「物語」を紡ぐことではありません。
だからこそ、「どのようなストーリーを語れるのか?」が、商品やサービスを選んでもらうための決定的な要素になるのです。
カレーライスを題材にした文章表現の違い
今回は、「カレーライスを販売する」ことにして、メリット訴求の文章とストーリーライティングの文章を対比してみました。
メリット訴求の文章
毎日の食事は、ただお腹を満たすだけではありません。
「美味しい」「健康に良い」「気軽に食べられる」──そんな要素がそろってこそ、日常の食卓は豊かになります。
当店のカレーは、そのすべてを兼ね備えています。
- 20種類以上のスパイスを調合
- 1皿あたり約500kcalでヘルシー
- 食物繊維が豊富で、体にやさしい
- 価格は700円で続けやすい
- テイクアウト・デリバリー対応
健康やコストを気にしながらも、美味しさを妥協したくない。そんなあなたの願いを叶えるのが、このカレーライスです。
ストーリーライティングの文章
もし、あなたが今日の食事を「ただ空腹を満たすだけ」で終わらせたいのなら、この文章を読む必要はありません。
けれども──。
食事を「人生を変えるきっかけ」にしたいと思うのなら、この先を読み進めてください。
あなたは、玄関を開けた瞬間に広がるカレーの匂いを覚えていますか?
あの香りは、単なる食欲を刺激するだけではありません。
野菜やスパイスが持つ成分は五感を呼び覚まし、脳を活性化させ、「よし、頑張ろう」と気持ちを切り替えるスイッチになるのです。
実際、イチロー選手が現役時代に試合前の食事として奥様のカレーを選んでいたのは有名な話です。
彼がその習慣を続けたのは偶然ではありません。カレーは炭水化物、タンパク質、野菜といった必要な栄養を一皿でまかなえる完全食に近く、さらに香りが「勝負モード」への切り替えを助けるからです。
だからこそ、彼はあの極限の緊張感の中でも力を出し切ることができたのです。
当店のカレーは、そんな“力を引き出す食事”を目指しています。
玉ねぎを2時間かけてじっくり炒め、自然な甘みを引き出し、20種類のスパイスを香りが最も際立つ調合にしています。
味わいだけでなく、香りが脳に働きかけ、あなたの気持ちを整える一皿になっています。
コンビニ弁当で「空腹を満たすだけ」に終わるのか。
それとも、このカレーを「体と心を整えるルーティン」に変え、一流の選手が持っていたような習慣をあなたのものにするのか。
選ぶのは、あなたです。
どちらの文章も一長一短がありますが、生成AIが台頭してきた今、メリット訴求の文章は様々な場面で見ることになるかもいsれません。
ストーリーライティングの注意点
先ほどの例文は違いを分かりやすく見せるために、あえて誇張した表現を使いました。そのため少し大げさに感じた方もいるかもしれません。ですが、同時に「カレーライスの魅力」や「ストーリーが持つ引き込み力」も感じられたのではないでしょうか。
ストーリーは感情に訴える力を持ち、読み手を強く惹きつけます。しかしその反面、誇張や脚色が過ぎると「怪しい」「信じられない」と思われてしまう危険性があります。
特に注意すべきポイントは次の通りです。
- 読者の問題解決につながる構成にすること
→ 単なる体験談や自慢話に終わらず、「読者にとって役立つかどうか」を常に意識する。 - 成果や成功体験を過度に誇張しないこと
→ 「誰でも簡単に成功できる」「たった1日で変われる」といった表現は、不信感を生みます。 - 事実をベースに、共感を呼ぶ描写を重ねること
→ 感情に訴えるからこそ、リアルな事実や具体的な数字を添えると説得力が増します。
ストーリーライティングは、感情を揺さぶりつつも「信頼を損なわない」ことが大切です。
大げさな表現で一瞬の注目を集めるよりも、読者に「自分のことだ」と共感してもらえる物語を描くことが、長期的には強力な武器になります。
まとめ
最後に、今回の内容を整理します。
- メリット訴求は分かりやすく、理解はされやすいが、記憶には残りにくい。
- ストーリー訴求は感情に働きかけ、読者が「自分ごと」として行動に移すきっかけを作る。
- ただし、誇張や事実無根の話は逆効果。リアルさと共感性を大切にすることが重要。
カレーライスという身近な例でも分かるように、文章で大切なのは「何を伝えるか」だけでなく「どう語るか」です。
なお、本記事ではページ数の都合もあり、例としてイチロー選手という著名人を取り上げました。知名度のある人物を使うと、短い文章でもイメージが伝わりやすいからです。
しかし、実際のストーリーライティングにおいて必ずしも有名人である必要はありません。むしろ、ご自身のエピソードや実体験を語ることでこそ、読者に「自分と同じ目線だ」と思ってもらえ、強い共感を得ることができます。
ただし注意点として、LPやSPのように一度に多くの情報を読んでもらいにくい媒体では、体験談を長々と書いてしまうと離脱を招きかねません。その場合は、ステップメールや動画などで事前に知識や共感を育てたうえで、LPやSPに誘導するという形が効果的です。
今回イチロー選手を例にしたのは、あくまで「短い文章でもストーリーの力が伝わる」ことを示すためです。実際には、あなた自身や身近な人の体験談を用いたほうが、よりリアルで信頼されるストーリーになります。